事例紹介
新築
改修
高山市立荘川ショウカワさくら学園
(岐阜県高山市)

地域とつながり
愛着を育むトイレ
荘川小学校と荘川中学校を統合し
誕生した義務教育学校
高山市の西部に広がる荘川町は、日本三霊山のひとつ「白山」の雄大な姿を眺望できる自然豊かな地域として知られています。その地に立つ高山市内で初となる義務教育学校「荘川さくら学園」は、荘川小学校と荘川中学校を統合し、令和5年度から工事を開始。この4月に開校式を迎えました。
校名の「さくら」は、岐阜県の天然記念物であり、「奇跡の桜」として知られる荘川桜(しょうかわざくら)にちなんでいます。この桜は約500年にわたり、地域を見守り続けてきた特別な存在です。
「同学園開校の背景には旧小・中学校や保育園の建物の老朽化と少子高齢化による人口減少がありました。その課題解決に加え、荘川地域を担う子どもたちにより良い教育環境を提供し、同学園を中心とした将来性豊かな荘川を構築するために誕生しました」と高山市教育委員会の加藤直也さんは話します。
建物全体はアリーナを中心に、保育園がある建物と教室や職員室や特別教室がある校舎が直角に交わり、敷地内には、1~9年生が通う義務教育学校のほか、保育園や給食センターも併設。校舎棟と隣接する場所には地域交流スペースが設けられ地域の会合や獅子舞などの地域芸能を学ぶ場所として利用されています。同交流スペースの利用においては、教室エリアとの動線を扉で遮ることができるようにするなど、セキュリティ面にも配慮しています。
校舎からアリーナ、保育園までを屋根付きの渡り廊下でつなぐ「荘川のこみち」は、天候に左右されることなく快適に移動ができます。また、児童や生徒、教職員がいっしょに利用できる、広いランチルームが設置され、昼食時のほか、保護者会や教職員のミーティングなどフレキシブルに活用されています。また、特別支援学級として利用できる教室が3クラス設けられています。アリーナをはじめ、校舎内に天然の木がふんだんに使われているのが特徴的で、ぬくもりを感じる風景を創出。それらの一部には工事で伐採された敷地内の杉の木がフローリングに用いられています。
きれいな校舎やトイレを通して
「大切に使う」という心を育てる
「校舎完成後のお披露目会で、子どもたちが最も喜んでいた場所の一つがトイレでした」と話すのは、川上祐輔教頭先生。以前はタイル張りで和式便器と洋式便器が混在し、窓も小さく暗い空間でしたが、開口部を大きく取って採光性や開放感を高め、照明もLEDに換えることで明るさを増しています。特に、子どもたちが感激したのは、手洗い器や鏡の高さにさまざまなバリエーションがあることでした。それは新しい学校についての意見交換を行った際に、年齢や身長に合う高さにしてほしい、と要望したことがしっかりと叶えられていたからです。また、以前はタイル張りであったことから、汚れがこびりつきやすく、掃除もしにくかったのですが乾式化によりフラットになることで汚れもふき取りやすく、掃除がしやすくなったという生徒の声も届いています。トイレが心地よい空間になることで自分たちが使う場所を普段から大切に使っていこうという気持ちも芽生えてきました。
荘川町には、以前より地元の人々が地域の掃除や草刈りに積極的に取り組むことで美しい環境を自分たちで守っていく風土がありました。そういった良き習慣は新しい校舎で学ぶ子どもたちの中にも育まれているようです。
豪雪地帯ならではの対策も反映
新しく誕生した校舎の外観には、随所にスチールのルーバーが施されています。デザイン的なアクセントとして建物を飾っているように見えますが、実はそれだけではありません。岐阜県内でも有数の豪雪地帯として知られる荘川地域。半年近くの長い期間、地域全体が積雪対策を取る必要があり、学校も例外ではありません。そのため、屋根の雪下ろしや雪囲いなど、落雪対策も保護者といっしょに行われてきました。今回の荘川さくら学園の設計に関しては何度かワークショップが開催されましたが、そこでも要望として出されたのが落雪対策の負荷を軽減することでした。今回、採用されたスチール製のスノーガードは、屋根からの雪を粉砕し、一度にまとまって落下することを防ぐと同時に、雪囲いの機能も持ち落雪や吹雪によって窓ガラスが破損することを防ぎます。
また、アリーナの壁面には太陽光パネルを設置。通常なら屋根部分に装着することが多いですが積雪によって埋もれてしまうことを回避することと、積もった雪で反射する太陽光もエネルギーに変換することを考慮しています。そういった豪雪地帯への対策は、トイレの設計にも反映されています。寒冷地対策として手洗い器はすべて電気温水器付きの自動水栓で手をかざすだけでお湯が出ることはもちろん、トイレ内には暖房用の電気パネルを設置。便座も温水洗浄機能付きのあたたかい便座が採用されています。さらに上水道は、凍結防止装置が稼働しています。
家庭のようにトイレもほっとできる居場所に
設計を担当した大建設計の大岩正輝さんが、校舎をデザインする上で大切にしたのは、愛着を持っていっしょに成長できる学びの場づくり。その視点は、トイレのデザインにも生かされ、まるで家にいるようにほっと心が和むよう、校舎と同じように木のぬくもりが漂う空間に仕上げられています。また特別支援学級の近くにあるトイレの入り口部分には、ベンチを設置。ゆっくりと座って友だちと談笑したり、教科書や筆記用具をトイレ使用時に一時的に置いたりすることもできます。様々な配慮や設備が施されたトイレに対して都竹克彦校長先生は「運動や遊びなどでケガをした子どもや、衛生面を気にする子ども、学校のトイレに不安を感じていた子どもたちも安心して使用できることがありがたいですね」と話します。
校長先生をはじめ、教職員の方々が児童や生徒一人ひとりと丁寧に接し、育てていこうというきめ細かさが、その言葉から伝わってきます。