Special discussion
学校トイレのいま、そしてこれから
Special discussion 「これからの学校トイレ」を未来志向で共に考える
学校トイレのいま、そしてこれから

学校を取り巻く環境変化とともに、トイレにおいても新たな課題やニーズが生まれています。
今回、校舎の建て替えや改修を計画されている自治体の方にお集まりいただき、これからの学校トイレの未来像を探りました。

  • 豊貞 佳奈子 豊貞 佳奈子

    豊貞 佳奈子

    学校のトイレ研究会
    会長
    福岡女子大学
    国際文理学部
    環境科学科
    教授

  • 小林 祐紀さん 小林 祐紀さん

    小林 祐紀さん

    渋谷区
    経営企画部
    施設整備課
    機械設備係
    主査

  • 大内 義鷹さん 大内 義鷹さん

    大内 義鷹さん

    渋谷区
    教育委員会事務局
    教育政策課
    学校施設整備第三係
    主任

  • 三嶋 聡さん 三嶋 聡さん

    三嶋 聡さん

    目黒区
    資産経営部
    施設整備課
    施設整備係
    係長

  • 加賀美 大雅さん 加賀美 大雅さん

    加賀美 大雅さん

    目黒区
    資産経営部
    施設整備課
    施設整備係
    係長

学校を取り巻く環境変化とともに、
トイレにおいても新たな課題や
ニーズが生まれています。
今回、校舎の建て替えや改修を計画されている
自治体の方にお集まりいただき、
これからの学校トイレの未来像を探りました。

学校施設のトイレ改修の現状

まず学校のトイレ改修についてお伺いします。
どのような計画で整備を進められているのか、お聞かせください。

会場風景01

会場風景02

まず学校のトイレ改修についてお伺いします。
どのような計画で整備を進められているのか、お聞かせください。

加賀美(目黒区)目黒区では、築年数が経過している校舎が多く、平成26年頃から小・中学校のトイレの洋式化を本格的に進めてきました。平成30年頃から東京都の補助金を活用することで、より一層予算を確保しやすくなり、洋式化からフルリニューアルへとシフトし、「トイレの環境改善」に今まで以上に積極的に取り組み始めました。現場で学校の先生や保護者に話を伺うとフルリニューアルは特に好評で、支持されていきました。

三嶋(目黒区)ブースの寸法が決まっているため、単純な洋式化では使いにくくなり、それならフルリニューアルにしようという流れもありました。「トイレをきれいにする」だけでは予算化が難しいケースもあるため、「教育環境の向上」の一環として進めてきた経緯があります。洋式化だけではなく、少しずつレベルアップできたのには、そういった背景があります。

小林(渋谷区)渋谷区では、昔は、いわゆる3K(暗い、汚い、臭い)のトイレがほとんどだったのですが、児童・生徒が快適に使用できることを目的に、昭和の終わりからトイレのスケルトン改修に着手し、10年程かけて小学校10校と中学校6校の改修工事を行いました。改修内容は、床は湿式、大便器はフラッシュバルブ。各トイレに1室洋式便器を設置、小便器は中学校が壁掛け式、小学校は床置き式。洗面は手動の水栓という共通の設計を行っていました。当時としては先進的であり、その後も未改修の小・中学校に着手し、トイレの改修は一段落しましたが、平成26年頃より学校から「すべてのトイレを洋式に変えてほしい」という要求が増え、平成30年から、便器の全洋式化工事を行っていました。結果、令和2年までに渋谷区の学校全体の80%以上で洋式化を達成しています。トイレの改修は補助金を活用することで、予算が通りやすかったようです。

豊貞(研究会 会長)平成30年頃は、教育環境の改善が進められ、空調設備の整備も行われたと思います。優先順位はあったのでしょうか。

三嶋(目黒区)空調設備は全校まとめて実施することが多く、一方トイレは段階的に少しずつ改修され、年々グレードアップしていく傾向があります。

加賀美(目黒区)トイレの環境をよくしていこうという機運があり、後回しという感覚はなかったですね。

小林(渋谷区)普通教室の改修工事やICT化といった大きな方針の中で、施設整備としてトイレをどうするか、空調をどうするかという観点で考えるのですが、トイレが汚いから使うのをやめようとか水分補給を控えようとなると子どもたちの教育環境を損ねることになります。トイレは大事な場所で優先順位が低いということはないと考えています。さらに首都圏と地方では抱えている課題も違ってきます。社会の変化や地域人口の推移などさまざまな観点で考えていく必要がありそうですね。

トイレ改修は
洋式化・乾式化で終わり?

次は、トイレの改修は、洋式化や乾式化で完結するのか、というテーマで議論していきたいと思います。

会場風景03

次は、トイレの改修は、洋式化や乾式化で完結するのか、というテーマで議論していきたいと思います。

三嶋(目黒区)洋式化だけで終わってしまうと、子どもたちの目に見えるところや手に触れる所が古いままなので、大きな変化はなかったですね。やはりトイレブースや壁、床まで改修すると、学校から大変喜ばれました。特に床の変化は大きくて、乾式化によって清掃もしやすくなったという声もいただきました。

小林(渋谷区)コロナ禍では自動水栓、ここ数年はバリアフリー化に対する反響が高いです。職員や来客用トイレに温水洗浄便座を設置したときは特に好評でした。バリアフリーについては、支援が必要な児童・生徒が入学する際は必要に応じて改修も行うようにしています。

豊貞(研究会 会長)温水洗浄便座の話がでましたが、日本の家庭の普及率は8割を超えています。つまり、今の子どもたちは生まれた時から温水洗浄便座がある環境で育っているわけですが、学校での状況はいかがですか。

小林(渋谷区)子どもたちにとっては基本的に自分の家がスタンダードになると思うので、学校の便座が冷たかったらびっくりしますよね。洋式化、乾式化だけではなく、子どもたちが一人になって落ち着ける場所という視点も大事だと思います。

先生方の働く環境の整備という意味では、トイレも重要な場所と思えますがいかがでしょうか。

先生方の働く環境の整備という意味では、トイレも重要な場所と思えますがいかがでしょうか。

加賀美(目黒区)これまでは、限られた予算の中でトイレを改修していくため、児童・生徒用のトイレ整備を優先してきた経緯がありますが、今後は職場環境の整備という観点から教職員用トイレも大変重要だと考えています。

豊貞(研究会 会長)小・中学校においても教職員のトイレのあり方を考えることは重要になってくると思っています。先生方に話を伺うと、トイレは、自分の気持ちを整理したり、涙が出そうになった時にリフレッシュできる空間になっているようです。
私も教員という立場ですが、一人になることができる、落ち着ける場所は必要だと思います。

地域社会との共生、
防災拠点としての役割

学校施設は、災害時の避難所としても利用される公共施設であり、地域のコミュニティ形成の場でもあります。
次はこの観点で、学校のトイレのあり方についてご意見を伺いたいと思います。

公立小・中学校バリアフリー化の状況データ

会場風景04

学校施設は、災害時の避難所としても利用される公共施設であり、地域のコミュニティ形成の場でもあります。
次はこの観点で、学校のトイレのあり方についてご意見を伺いたいと思います。

小林(渋谷区)既存の学校では体育館の近くのトイレにおいて、洋式化と、温水洗浄便座や手すりを各ブースにつける改修を進めています。
また、体育館から段差なしで移動ができる場所にバリアフリートイレの整備も計画しています。

大内(渋谷区)過去に発生した災害では、避難所のトイレが汚いために水分を控えて脱水症状になったり、感染症にかかったり、災害関連死につながったケースもあります。避難所は高齢者も多いので、避難生活のエリアとトイレをなるべく近い場所にするなど災害時に安心して使えるというのが一番大事だと思います。新しい学校では平常時に使用しているトイレを災害時にも使えるように非常用発電機を導入する予定です。また、地域の拠点としても開放する計画ですので各フロアにはバリアフリートイレを設置していきます。体育館は避難所として利用するので、1階にトイレを配置し、足の不自由な方でも使えるよう計画しています。

豊貞(研究会 会長)マンホールトイレや携帯トイレは常備されていますか。

大内(渋谷区)渋谷区は各学校で避難者の3日分を想定した数の携帯トイレを備蓄しています。マンホールトイレは、テントをかぶせる形状となるため、臭いや衛生面で課題があります。トイレを我慢せず使用できるよう、平常時に使っているトイレを非常時にも活用できるように注力しています。また、実際に災害が起きたときに混乱しないよう、日頃から携帯トイレの使い方などを訓練しておくことも大事ですね。水と食料は何とか我慢できる。ただトイレだけは我慢できませんから。

三嶋(目黒区)体育館等は災害時利用のトイレを整備中ですが、現状では個数が足りていません。普段は使わない部分にどれだけ予算を確保できるか、そのバランスが難しいですね。配管の耐震化、非常用発電機など、悩むポイントは多くあります。

加賀美(目黒区)災害時に停電すると換気扇も回らない状態になってしまいます。停電時でも必要最低限の換気ができるよう窓面の整備も重要ではないか、と思います。
渋谷区さんは避難所のトイレとして、設計時にどういった視点をお持ちでしょうか。

小林(渋谷区)災害時に配慮が必要な方や、要介護者にも安心して使っていただけるよう設計を進めています。

大内(渋谷区)渋谷区には地域開放で車いすラグビーを実施している学校もありますのでそのような方が利用できる整備も必要と感じています。
災害時は、区の防災課の運営に加え、保健師による衛生指導も行い、町会の人たちに避難所運営委員会として活動していただく体制になっています。

加賀美(目黒区)地域社会との共生という観点では、学校を地域コミュニティの形成の場として位置づけていきたいと思っていますが、セキュリティ面に不安を感じている保護者や教職員の方も多いですね。

大内(渋谷区)渋谷区も同じです。シャッターを閉めるなどの対応をはじめ、授業があるときは地域開放をしないなどの対策も検討する必要があると思います。

豊貞(研究会 会長)渋谷区は公園トイレを整備する事例がありますが、公共施設のトイレをオープンにしていく上では一長一短がありそうですね。

三嶋(目黒区)公園のように不特定多数が前提である場合より、学校という特定多数だった場所を準不特定多数の方が利用するようになるとセキュリティ面で摩擦が起こる可能性が高いと考えています。

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